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徳島地方裁判所 昭和32年(行)12号 判決 1966年12月23日

徳島県那賀郡那賀川町字西原

原告

梶本喜八

右訴訟代理人弁護士

武市官二

徳島県阿南市富岡町

被告

阿南税務署長

寺尾富次郎

右指定代理人検事

村重慶一

法務事務官 大坪定雄

同 中川安弘

大蔵事務官 奥村富士夫

右当事者間の所得金額更正決定取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対して、(一)昭和二九年五月二〇日になした昭和二七年度分の、(二)昭和二九年五月二六日になした昭和二八年度分の、(三)昭和三〇年四月一六日になした昭和二九年度分の、各所得税についての更正決定をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

(原告の請求原因)

一  原告は、住居地において昭和二五年六月から木材の製材並びに販売を業としているものであるが、原告は、被告に対し、左記表(一)の如く昭和二七・二八・二九年度の各所得額確定申告を為したところ、被告はこれを不当として、それぞれ左記表(二)のとおりの更正決定(以下本件処分と総称する。)を為した。

そこで原告は、その帳簿につき精査したところ、右確定申告の所得金額が誤りであることを発見したので、左記表(三)記載の如くの各所得金額を主張して右各日時に被告に対して再調査の請求をしたが、被告は、昭和三〇年七月一五日、右各請求を棄却したので、原告はさらにその帳簿を精査したうえ左記表(五)記載の如く各所得金額を主張して同年八月六日、高松国税局長に対して審査請求をしたところ、同局長は、昭和三一年一〇月一九日、右審査請求をいずれも棄却し、右決定は同月二一日に原告宛に送達された。

<省略>

二  しかしながら、原告の事業所得額は、審査請求に際して主張した如く、昭和二八年度において金二九〇、三五八円、昭和二九年度において金八一、一六五円であり、又昭和二七年度においては金五一〇、〇九四円の欠損である(別表一・二・三の区分Aの原告主張額欄参照)から、被告の為した本件処分は違法である。

三  よつて、原告は被告に対し、本件処分の取消を求める。

(請求原因に対する被告の答弁)

請求原因一項の事実はいずれも認めるが、二項の主張はいずれも争う。

(被告の主張)

第一  原告は、一応複式簿記方式による帳簿を備付けているが、その記帳内容には以下にのべるような不合理の個所が多く、又不実記載の事実も認められるから、当該記帳額は事業経理の実体を表示したものとはいえない。従つて、右記帳額に基く原告の主張額は、何等根拠のある計数によるものではない。即ち、

一  消費電力量と素材挽立石数との割合に徴し、原告の記帳売上高には脱漏のあることが推認できる。

原告の帳簿によれば、消費電力量一キロワツト当りの素材挽立石数は、左表の如く、昭和二七年度分は〇・一六石、同二八年度分は〇・一八石、同二九年度分は〇・一二石となつていて各年度により相当の差異があるばかりでなく、特段の事業がないのに、その割合が他の同業者に比して著しい僅少さを示している。

○原告方の電力量一キロワツト当りの素材挽立石数表

<省略>

○他の同業者の右同素材挽立石数表

<省略>

もともと、製材業者間にあつては、特段の事情のないかぎり、消費電力量に対する素材挽立石数の割合はほぼ同率であるべき筋合いであり、しかも原告方の製材規模は他の同業者と大差なく、又いずれも電力を使用動力としている。

ところが、右の表によれば、昭和二七年度における同業者の電力一キロワツト当りの素材挽立石数の平均は〇・四五二石である(右は国税庁調査課が作成した製材業の全国平均の結果の要約であるが、機械設備等に特段の変動がないかぎり、各年度毎によつて差異が生ずるものではない。)のに、原告のそれは〇・一五三石強にすぎず、その割合は三割三分にも足りない。つまり、原告は一キロワツトの電力ごとに他の同業者の三割四分程度の挽立しか行つていないことになるのであるが、そのようなことはとうてい考えられないことである。

従つて、原告の右素材挽立数量は実際よりも過少に見積もられているといわざるをえず、これは当然に販売石数(売上記帳高)にも影響を及ぼし、その数額もまた真実に反して過少に表示されているものといわざるをえない。

二  原告の帳簿によると、現金在高がマイナスとなる日が多く、収入金の記帳もれが認められる。

原告の現金勘定は、阿波商業銀行古庄支店の普通預金額をも含めて記帳されているので、原告の日々の純手持現金在高は現金勘定残高から右預金残高を控除した金額となるべきはずである。右の計算によると、原告の手持現金在高は、時々マイナスとなるばかりでなく、その金額も五三万余円の多額に及ぶことがある。ところで、帳簿上、手持現金在高がマイナスになることは、収入金が記帳漏れになつた場合か、又は実際には支払いがないにもかかわらず支払いがあつたものとして記帳が為された場合の二つであるが、原告の支払いについて念査すると、計数の上での架空計上は認められないから、右のマイナスは収入金額の記帳漏れに起因するものと認めるより外はない。

この点について原告は、帳簿上手持現金在高がマイナスになつても、営業外の手持現金を流用していたもので、記帳外売上金を使用したものではない旨主張するが、営業外手持現金を流用したとする右主張は、「帳簿上手持現金在高がマイナスになる理由は、実際に返金していない借入金を返金した如く記帳したためである」とする訴訟外における原告の従前の主張と全く齟齬するばかりでなく、右の裏付けとして主張する「営業外手持現金収支明細書」なるものについてみても、明瞭な不実記載があつて、家事費以外は何等根拠のある計数によるものでないから、営業外手持現金を流用したとする原告の右主張は明らかに虚構であり、このことはかえつて記帳外売上金の流用を物語るものといわざるをえない。

三  原告の帳簿には、家事費の出所について記帳がなく、記帳外収益金の一部を家事費に充当していた事実が推認される。

原告は、昭和二七年当時、一一人の家族を扶養し、相当多額の生活費を支出していたものであり、又その資金も他に出所のないところからみて、営業収益によつて賄われていたことは明らかであるが、原告の帳簿には、昭和二八年分一九一、〇〇〇円(昭和二八年一月一日引出し)、同二九年分二〇〇、〇〇〇円(昭和二九年一月一日引出し)の店主引出しの記帳があるのみで、昭和二七年分の生活費については全く記帳されてない。従つて、原告の右記帳された以外の家事費は記帳外の収益によつて賄われていたことが認められるから、右家事費相当額(原告は、原告家の一カ月当りの家事費としては四万円を要すると主張するが、右金額は当時の一般生計費と比較して妥当な金額であるから、被告はこれを認めて利益に援用する。)の脱漏収益の存在が推認される。

尚、昭和二八年分については、右のように一応一九一、〇〇〇円の引出し記帳がなされているが、かかる金額は原告家の家族数からみて家事費としては全く過少であるばかりでなく、このような金額を向う一カ年分の生活費として予め引出しておくことは通常ありえないから、上記の引出し金は後日適当に計上したものという外なく、措信できるものではない。

四  原告の帳簿には、売上金を預り金として記帳しないしは商品代金の受入れを借入金として記帳し、もつて利益の削減を図つた事実が認められる。

(一) 原告は、自己が理事長となつている那賀川共栄木材協同組合からの預り金として、昭和二七年一一月二〇日付金一二〇万円の受入れ記帳をしているが、右組合の帳簿にはこれに照応する記帳がないばかりでなく、右組合の預金から払出された形跡がないから、右一二〇万円は売上高であることが推認できる。

このことは、右の記帳部分に改ざんの跡があるばかりでなく、審査請求に対する税務調査に際して、右金額は樋口久太郎等からの個人借入金である旨の訂正申立がある等、預り先について原告の陳述が常に一定しないことから判断しても、この記帳は不実のものであることが容易に推認できるのである。

この点について原告は、本訴においては、右一二〇万円は池田幸夫からの貸付け回収等であると主張するけれども、池田幸夫がそのような借入れ、返済をした事実はないから、原告の右主張は誤りである。又原告は、右預り金の記帳に当つて、事実に反して那賀川共栄木材協同組合の名義を使用した理由は、樋口久太郎ほかの債権者名を表面に出さないためであると主張するが、右債権者名はすでに帳簿上明らかにされているところであるから、かかる理由の存しないこともまことに明瞭である。

(二) 原告は、昭和二七年四月三〇日、尾道市の小林修市に対して金一〇三、二三〇円の売上げをなし、同代金の一部として同年六月一八日、金四三、二三〇円および金五万円の受取手形を受領の上、同月二〇日、四国銀行富岡支店において割引かれているが、原告は、当該売上金一〇三、二三〇円を、四月一五日貸倒れとして記帳するとともに、右受取手形二通を、六月八日、売上げに関係のないいわゆる融通手形として記帳処理している。

このことは、原告が、税務調査の困難な融通手形の性質を利用して、売上げを隠蔽したものと認められるが、原告記帳の融通手形の中には、借入れ当日の現金残高が多額で何等借入れをする必要がない場合もあることから判断して、右事例の如く、売上代金を融通手形に仮装したと認められるものが多数ある。

五  原告の帳簿には、売上金を当座預金からの入金として虚構の記載をしていた事実がある。

原告は、昭和二七年一一月二八日、当座預金から金一〇〇万円を引出し、同日同金額を現金勘定に受入れ記帳しているが、事実はこれと相違し、当座預金から引出した右の金一〇〇万円を直ちに四国銀行富岡支店の支店長名義の当座預金に入金した後、同支店長振出しの小切手を受領して、三和銀行富岡支店における那賀川共栄木材協同組合理事長梶本喜八名義の普通預金(この預金は記帳されていない)に入金されているものである。

従つて、当座預金からの引出金として記帳された現金勘定の右金一〇〇万円は、帳簿上直ちにその出所は不明であるとしても、原告には資産等による営業以外の所得はないから、右はすべて売上除外金の受入れであると認めるべきである。

六  原告の帳簿には、期末棚卸高の一部を隠蔽した事実がある。原告は、昭和二九年四月一五日現在の期末製品棚卸において、製品石数を一四五石として計算しているが、同日、右の一四五石以外に、船積みした製品二八一石余を有していたから、右原告の棚卸高は全く事実に反した過少のものである。

第二推計計算について

原告の帳簿には、以上のべた如く、記帳漏れがある等して事業経理の実体を表わしていないから、これに基いて原告の所得額を算定することはできない。よつて、被告は、別表一ないし三の被告主張額欄のとおり原告の本件係争年度における所得額を推計計算により認定したものであり、これによれば、原告の昭和二七年度分の総所得額は一、〇六四、七〇一円、同二八年度分の総所得額は一、五五二、五三六円、同二九年度分の総所得額は七一二、九八九円であるから、被告が為した本件更正決定は相当である。

被告の為した推計計算の認定根基はつぎのとおりである。

一  収入金額(別表一ないし三の各(1)(3)の被告主張額欄の金額)について

(一) 原告の売上記帳に多額の記帳漏れのあることは前述のとおりであるが、その脱漏は、中には帳簿上の操作によるものも見受けられるけれども、その大部分は、記帳前に送品仕切書を破棄する等の方法により、始めから取引きがなかつたものとして全く記帳されないものであることが認められる。従つて、何人に対するいくばくの売上金を何時記帳しなかつたか等具体的に脱漏額を計算することは不可能であるから、被告は別表四の如く、消費電力量一KW当りの製材石数が〇・二石あるものとして、原告の本件係争年度の売上金を算定した。

(二) 被告が、消費電力量一KW当りの原告方の製材石数を〇・二石と認定した(別表四の(1))根拠及び右認定を妥当とする理由は、つぎのとおりである。即ち、

(1) まず被告は、帳簿の完備した誠実な青色申告法人であつて原告の業況に類似する、徳島県阿南市の一楽製材有限会社および徳島県名西郡石井町の西浦製材有限会社の実績を採用したものであるが、一楽製材有限会社の昭和三一年九月一日から昭和三二年八月三一日までの事業年度における消費電力量が二四、七九八KW・製材石数が五、九〇五石であるから、同会社の消費電力量一KW当りの製材石数は〇・二三八石であり、又西浦製材有限会社の昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日までの事業年度における消費電力量は九、五六一KW・製材石数が二、七九三石であるから、同会社の消費電力量一KW当りの製材石数は〇・二九二石であることに鑑みれば、原告のそれを〇・二石と認定した被告の推計計算は、他の同業者と比較しても不当ではない。

(2) また、原告の本件係争年度における機械設備および従業員をそのまま引継いで原告と全く同一の経営状態にあつた(同商店が機械設備をとりかえたのは昭和三二年頃からである。)有限会社梶本喜八商店(以下単に梶本商店と略称する。)の昭和三一年度(昭昭三一年四月一日から昭和三二年三月三一日までの事業年度)における消費電力量は四三、一一五KW・製材石数が九、七八二石九三であるから、消費電力量一KW当りの製材石数は〇・二二石である。右一KW当りの石数は被告が原告について採用した〇・二石の石数とほぼ一致し、被告が採用した石数が妥当であることを裏づけるものである。

(三) 原告は、被告の右〇・二石の算定が不当であると主張するが、被告はこれに対してつぎのように反論する。

(1) 一楽製材有限会社および西浦製材有限会社と原告の本件係争年度における機械設備とは全く同一ではないが、これをもつて直ちに被告が採用した〇・二石を違法ということはできない。即ち、電力を動力源とする鋸断工程を経て材料が製品化される製材工場にあつては、電力の消費量がつねに製材高のバロメーターとなることは顕著な事実であり、又その鋸断工程の能率はその工程に関する種々の機械設備を稼動させる電動機の総馬力数に比例するから、消費電力量一KW当りの製材石数は、総馬力数の異る各製材工場間においても殆んど一致するのが実情である。

尚、原告は、原告の本件製材工場においては、開業以来昭和三一年一〇月に至るまで、稼動されるべき機械設備に比して余分の馬力を有する電動機を備付けていたから、他の同業者の工場にくらべて過大な電力量のロスが生じた旨主張するが、一時的ならばともかく、かかる多年間に亘つて過大な電力量のロスの生ずるまま放置しておくことは通常考えられないところである。

(2) 原告は、梶本商店の製材石数に関しては、<1>昭和三一年一〇月頃から、それまで空転状態にあつた一号テーブルが新たに稼動を始めたこと、<2>板類中心の製材から割類中心の製材に移行したこと、<3>売上記帳石数が実際の石数でなく、名目石数によつていたこと等から、被告の主張が不当であると主張するが、右主張の根拠がないことはつぎのとおりである。

(イ) 右一号テーブルを開業以来昭和三一年九月まで空転させていたとする原告の主張は、営利事業にあつては通常考えられないことであるから、原告のかかる主張は全く事実に反するものといわなければならない。尚、原告は、右稼動開始の証拠として、昭和三一年一〇月から消費電力量の増加していることを挙げているが、梶本商店の昭和三一年四月から昭和三二年三月までの間の電力消費量は四三、一一五KWであるのに対して、原告の昭和二七年度におけるそれが四〇、三〇〇KWであるから、その間にはそれほどの大差がないのみならず、一号テーブルが開業以来空転していたものとは考えられないことは前記のとおりであるから、この程度の電力量の増加は稼動時間の延長等に起因するものとみるべきである。

(ロ) 原告は、その生産品について、角類の生産はなく、割類も比較的少量であり、板類も主として薄板を生産していた旨主張するが、原告が高松国税局協議官に提出した昭和二九年四月一五日現在の在庫説明(乙第五号証の一・二)によれば、角類の在庫品がかなりあり、又板類についても四分以上の厚板をかなり保有していることが明らかであるから、右の主張は措信することができない。

又原告は、山和商会の倒産以来、板類中心から製品歩留りのよい割類中心の製材に移行した旨主張するが、山和商会は板類のみを取扱つていたものではなく、又板類と割類とでは販売単価に相違があり、両者のいずれを製造するも結局採算状況においてはさして差異を生ずるとは考えられないから、この点においても原告の右主張が虚構であるということができる。このことは、割類中心の製造であれば、歩留り率はつねに九〇%以上となる(別表八の(1)(2)の会社の実績参照)にもかかわらず、梶本商店の実績は別表七の(14)の上段の如く七三%となることからも明らかである。

(ハ) 又原告は、昭和三一年九月以来、梶本商店は名目石数(表示石数)の六四%にすぎない製品の製造を行いながら、その販売石数の記帳に当つては架空の名目石数によつて記帳していた旨主張するが、かかる主張によるならば、原告に有利に委託販売のみを記帳の六四%として計算しても、別表七の(14)の下段の如く、梶本商店の製材の歩留り率は五九%となり、山和商会の倒産を契機として歩留りのよい割類中心の製材を行つたはずの事業年度が全く常識を逸した低歩留り率となる。このように低い歩留り率は、どのような製材工場においてもいまだかつて生じたことはないから、原告のかかる主張は誤りであるといわざるをえないのみならず、本件係争年度中においても、原告は、別表一・二の各(18)・別表三の(19)の如く市売手数料を支払つているから、相当量の委託販売分があつたものと考えられ、従つてその分については名目石数によつて記帳されていたであろうから、いずれにしても原告の右各主張は理由がなく、被告の採用した一KW当りの製材石数〇・二石を不当とする理由とはならない。

(3) 原告が主張する本件係争年度および昭和三一年三月までの梶本商店の消費電力量一KW当りの製材石数は、売上記帳等に脱漏のある帳簿に基いて算出されたものでもあるから、これを採用することはできない。

前述のとおり、原告の本件製材工場は、個人経営の時代から法人経営の昭和三二年三月に至るまでの間においては、その機械設備等が全く同一であるから、梶本商店の昭和三一年四月から同三二年三月までの事業年度の実績である〇・二二石とくらべて、このように著しく過少となることは、かえつて原告帳簿の誤りであることを裏づけるものである。

(4) 原告は、従業員一人当りの作業能力の限界を主張するが、従業員数が製材量にある程度の影響をもつていることは事実であるけれども、その割合は軽微である。即ち、人力のみによる仕事は、作業量と従業員数とが比例すると考えられるが、製材の如く機械装置を使用する仕事は、必ずしも製材量と従業員数とは比例しないのである。機械を増設し、又は能率のよい機械ととりかえた結果、製材量が倍加することはあつても、従業員数は従来の二倍を必要とするものではない。即ち、結局は機械設備の如何によるものであつて、従業員一人当りの限界能力を一・二の資料で断定することは適当でない。

二  製造原価(別表一ないし三の各(5)の被告主張額欄の金額)について

被告が主張する原告方の本件係争年度における製造原価および販売原価は、別表五のとおりである。

原告記帳の仕入額が措信できないことは既述のとおりであるから、被告は、他の一般同業者の荒利益の割合(別表五の(2))を適用して、別表五のとおり算定したのである。

三  販売経費について

原告の、本件係争年度における一般販売経費は、別表一の(9)ないし(22)、別表二の(9)ないし(22)、別表三の(10)ないし(22)の各被告主張額欄記載のとおりである。

四  不動産所得について

原告の本件係争年度における不動産所得は、昭和二八年度分が金四三、八七五円(別表二の(25)の被告主張額欄の金額)、同二九年度分が金三一、五三七円(別表三の(25)被告主張額欄の金額)である。

この内、昭和二八年度分の不動産所得金四三、八七五円は、尾道市の小林修市に対する店舗貸付料であつて、つぎの如くその所得を算定した。

一カ月の家賃料七、五〇〇円×九カ月(昭和二八年四月から一二月まで)=六七、五〇〇円

六七、五〇〇円―経費二三、六二五円=四三、八七五円

(被告の主張に対する原告の答弁および反論)

第一被告の主張の第一の事実について、

(一)  一項の事実のうち、原告の帳簿によれば、本件係争年度における原告方の消費電力量一KW当りの素材挽立石数が被告主張の如くであること、原告方の製材が電力を使用動力源としていることはいずれも認めるが、他の同業者の消費電力量一KW当りの素材挽立石数が被告主張の如くであるかどうかは知らない、その余の事実はすべて否認する。

二項の事実のうち、本件係争年度における原告の現金勘定が阿波商業銀行古庄支店の普通預金をも含めて記帳されていること、従つて、原告の日々の純手持現金在高は、現金勘定残高から右の預金残高を控除した金額であること、原告の帳簿によると、本件係争年度の期間内において、原告の右手持現金在高が時々マイナスとなり、多いときではその額が五三万余円になることがあることはいずれも認めるが、その余の事実はすべて否認する。

三項の事実のうち、昭和二七年当時、原告が一一人の家族を扶養していたこと、原告の帳簿によれば、被告主張の如き店主引出しの記帳が為されていること、右以外には生活費についての記帳がないことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

四項の(一)の事実のうち、原告の帳簿によれば、昭和二七年一一月二〇日に、原告が理事長をしていた那賀川共栄木材協同組合からの預り金として金一二〇万円の受入れ記帳が為されていること、原告は、右日時に同組合から右金員を借受けたことがないこと、同組合の帳簿にも右に添う記帳が為されていないことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

四項の(二)の事実のうち、売上げを隠蔽したとの点を否認して、その余の事実をすべて認める。

五項の事実のうち、原告が昭和二七年一一月二八日、当座預金から金一〇〇万円を引出し、同日の現金勘定に同額の受入れ記帳をしていることは認めるが、その余の事実は否認する。

六項の事実のうち、原告が、昭和二九年四月一五日現在の期末製品棚卸において、製品石数を一四五石として計算していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  原告の帳簿は、いずれも精密なる日々の伝票により帳簿記入・計上が為されているものである。

一 原告の工場機械設備は、自動台車一台、腹押テーブル二台を中心に、附属丸鋸機数台、総馬力五五馬力、電力一〇〇馬力、蒸気馬力を有しながらも、実際の生産活動は、腹押テーブル一台は一カ月僅か一―二日位使用するのみにて全く空転状態にあつたこと、又原告は製材業には全くの素人でその経験がなく、かつ他の同業者と比して資金も少いので仕入れ素材の購入が不十分であり、そのために原木を日常供給するのに至難な状態にあり、経営においても全く劣等であつて、従つて、原告を他の業者と比較するのは、甚だしく事実を誤認するものである。

又、被告が主張する同業者の素材挽立石数のうち、〇・四石の杉板は、原板製品を標準としているものであるが、原告の製品は薄板製品である(当地は同製品の関西唯一の特産地である。)から、この点からも右をもつて原告のそれと比較するのは妥当でない。

二 被告は、原告の帳簿によると、現金在高がマイナスとなる日が多いので、収入金(売上金)の記帳もれがあるものの如く主張するが、原告は、別表六の(一)ないし(三)のとおり、相当額の営業外収入手持金を有し、営業上の必要に応じてこれを流用していたのである。このことは、個人営業者としては当然のことであり、流用額も五〇万余円に及んだこともあり、実質的に現金がマイナスになつたことはなく、流用資金の出所も別表六の(一)ないし(三)の営業外手持現金収支明細書のとおりであつて、売上収入金の記載もれは全くない。

三 被告は、原告の扶養家族一一人の生活費は殆んど営業収益によつて賄われたものの如く推認しているが、扶養家族のうち三人は那賀川町西原の旧宅に別居して、所有農地四反余歩を耕作して自活しており、残り八人の生活費は、別表六の(一)ないし(三)の営業外手持現金収支明細書のとおり、営業外手持金の内から毎月四万円程度を、原告の妻梶本ハツエに手渡してきたものであつて、原告の生活費は営業収益と何等関係はなく、被告の主張は理由がない。

四 那賀川共栄木材協同組合からの預り金として、昭和二七年一一月二〇日、金一二〇万円の受入れ記帳が為されているが、右の一二〇万円は、昭和二四・二五・二六年の間に、原告が樋口久太郎外二名から借入れた金九八五、〇〇〇円の内、金九〇万円を尾道市の建具販売業池田幸夫へ貸付けていたが、池田幸夫が、昭和二七年一二月に廃業するに際し、同人から同年一一月五日に四〇万円、一一月一五日に五〇万円を分割して弁済を受けた外、原告の営業外手持金三〇万円とを合し、合計一二〇万円を営業用に使用するため、那賀川共栄木材協同組合の名義にて入金したものであり、売上金ではない。

又、原告が同組合の名義を使用したのは、樋口久太郎その他の債権者の氏名を帳簿上に登載させなかつたためである。

五 昭和二七年一一月二八日、当座預金から引出した金一〇〇万円についての被告の主張は、全く事実と相違する。

即ち、那賀川共栄木材協同組合は、同年一一月二七日、阿波商業銀行古庄支店から金一四〇万円を引出し、その内金一〇〇万円を他行に預けるつもりであつたが、たまたま、原告が右組合の理事長であつたので、自分の四国銀行富岡支店の預金実績をつくるために一日借入れをして自己の当座預金に入金し、それを翌一一月二八日、四国銀行富岡支店長の小切手にて引出して、三和銀行富岡支店の那賀川共栄木材協同組合の普通預金に入金したものである。即ち、同組合が、阿波商業銀行の預金を三和銀行の預金に預け替えただけのことであり、原告の売上げ除外金ではない。

六 在庫品の調査は、昭和二九年四月一三日頃から着手したのであるが、四月一五日までに製造したものもあり、従つて、四月一五日現在の在庫品の石数は左の如く四六五石であり、その内の二八一石を出荷販売したものである。

製品 三四九石四二七×二、五一四=八七八、四五九円

半製品 一九石一五一×一、三九〇=二六、六二〇円

建具材 九七石〇五六×一、三九〇=一三四、九〇八円

合計 四六五石六三四 一、〇三九、九八七円

第二被告主張の第二の事実について

原告の帳簿が事業経理の実体を表わしていないとする被告の主張は根拠のないものであるのみならず、被告主張の推計計算の方法も根拠のない不当なものである。

被告主張の別表一・二・三の被告主張額中、別表一の(1)(3)(5)(7)(8)(24)、別表二の(1)(3)(5)(7)(8)(24)(26)、別表三の(1)(3)(5)(7)(8)(9)(24)(27)の各金額は争うが、その余はすべて認める。

一  被告主張の収入金額について

(一) 被告主張の別表四のうち、(1)(3)(6)(8)(12)は争うが、その余はすべて認める。

原告の売上記帳は正当なものであり、送品仕切書を破棄して取引きがなかつたものとしたとの被告主張は、全く根拠のないものである。

(二) 被告が主張する推計計算の根拠は、要するに、一KW当りの電力消費量があれば〇・二石の製材が可能であるという点にあるが、

(1) 被告が主張する一楽製材有限会社および西浦製材有限会社の消費電力量一KW当りの製材石数が被告主張の如くであることは認めるが、右両会社の機械設備と原告の本件係争年度における機械設備とは非常な相違があるから、両者を比較するのは相当でない。

即ち、原告の製材機械設備は、昭和初年頃、原告の先代梶本与市が設備し、蒸気エンジンでこれを運転していたものであるが、その後原告が、昭和二〇年頃、そのうちのエンジンだけを電動機に取り替えたものであり、そのために電動機以外はすべて老朽化して震動が激しく、しばしば運転不能になるほどであり、従つて、電力のロスも相当なものであつた。又、原告は、四二吋帯鋸テーブルに二〇馬力、四四吋自動台車に三〇馬力の電動機を使用し、地中の大転導装置をもつていたのに対して、一楽製材は、四二吋帯鋸テーブルに一〇馬力、四二吋自動台車に一八馬力の電動機を使用し、西浦製材もこれとほぼ同様であり、従つて、原告とこれ等の会社とを比較することはできないというべきである。

又、原告の機械設備のうち、一号テーブルは開業以来昭和三一年九月まで殆んど空転状態にあつたから、この点からも、電力の消費量によつて原告の製材石数を算定することはできないのである。

さらに又、訴外会社等の実績として被告が主張する製材石数は、いずれも実際の石数と異る名目石数(表示石数)によつて計算されているのに対して、原告の販売石数は実質石数によるものであるから、この点においても、原告と同訴外会社等とを比較することはできない。

(2) つぎに被告は、有限会社梶本喜八商店の実績を主張するところ、被告主張の年度における同商店の消費電力量一KW当りの製材石数が〇・二二石であることは認める。

なるほど、昭和二九年四月に原告が組織を有限会社梶本喜八商店としてから昭和三一年三月三一日までの間は、その使用機械設備および生産品目の内容は従前と全く同一であり、生産状況も、原木仕入れ等の点で多少良好になりつつはあつたが、従前の個人経営の時代とほぼ同じであつて、その内容はつぎの如くであつた。

<省略>

しかしながら、会社組織になつてからは、個人経営の時代を経過してきた経験や対外的信用もできてきたために、年毎に漸次改善の状況になつており、現に昭三一年九月頃からは、それまで空転状態にあつた前記一号テーブルの活動を開始するとともに新たな機械設備を備え、又新たに六名の新規工員を採用する等してその設備や経営内容が大きく変化するに至つたので、被告の主張する梶本商店の製材石数をそのまま原告の個人経営時代のそれと比較することはできないというべきである。

右の表は、いまだ右の如き状況になる前における会社経営の実体であつて、これは同一の設備のもとにおける本件係争年度の経営の実体を如実に物語つているのであつて、被告が主張する消費電力量一KW当りの製材石数〇・二石は、原告にとつては全く実際と異つたものであるといわざるをえない。

(3) 原告は、本件係争年度中は、主として板類のうちの薄板を生産しており、角類の生産はなく、割類の生産も比較的少量であつたが、昭和三一年八月にそれまで最も重要な納入先であつた神戸市の山和商店が倒産したため、営業方針を一変して、同年九月からは従来の板類中心の生産から割類中心の生産に切り替えることになつた。これは、板類にくらべて割類は生産するについて手数がはるかに少くてすむ上、同一の原料を消費しても板類よりもはるかに出来高が多いいわゆる製品歩留り向上があるからである。よつて、製材石数の算定に当つては、板類中心の生産と割類中心の生産の場合を消費電力量の割合によつて同一視することはできない。

(4) 原告の山和商店その他との従来の取引内容は、付売取引(一石当りの価格を定めて契約する方法)を主体としていたので真正の実質石数で販売記帳されていたが、昭和三一年九月からは、これが委託販売を主体とするようになつた。ところで、委託販売においては、例えば一寸ないものを一寸として計算するいわゆる名目石数(表示石数)で市販され、帳簿上でも実質石数とは異る名目石数で記帳している。しかし、実質石数は名目石数の約六四%にすぎないから、消費電力量一KW当りの製材石数を実質石数によつて換算すれば、実際はかなり少なく、被告主張のようにはならない。

(三) 被告主張の別表四の(3)の昭和二七年度分の製材石数八、〇四〇石を、同じく被告主張の別表八の(3)の昭和二七年度分の歩留り率七三%によつて換算すると、一一、〇一三石となる(即ち、<省略>)。

ところで、当時原告方の従業員は一六名であつたから、これを一人当りに換算すると、一カ月五七・三石の生産となり(即ち、<省略>)、一石は七五才であるから、一人当りの一カ月の生産は約四、三〇〇才となる(即ち、57.3×75=4,297.5石)。ところが、乙第七号証の一楽製材の一三名の従業員による素材挽立石数六、五七七石を、同様に一人当りの一カ月の生産量に換算すると四二石、約三、一六〇才となるところ、この程度が従業員一人当りの作業能力の限界であつて、これ以上の能力はとうてい考えられないところである。然るに、前記の如く、被告の主張によると、原告方においては、昭和二七年度において一人当り一カ月四、三〇〇才の生産をしていることになり、同様に昭和二八年度においては四、五二〇才、昭和二九年度では五、八〇〇才となり、これはいずれも作業能力の限界をはるかに越えるものであつて、到底考えられないところであるから、この点からも被告の推計計算が根拠のないものであるということができる。

二  被告主張の製造原価について、

被告が主張する別表五のうち、(1)(3)(6)(9)は争うが、その余はすべて認める。

三  被告主張の販売経費について、

被告主張の金額はすべて認める。

四  被告主張の不動産所得について、

被告主張の金額はすべて認める。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は、証拠として、甲第二号証の三・六・九・一二、第三号証の一、第四号証の二四・二五・四一、第五号証の一・二、第一一号証、第一六号証の一・二、第一七号証の一・二、第一八ないし二〇号証、第二二号証の一ないし七、第二三ないし二六号証を提出し、証人庄野茂・同三好政八・同西浦義二・同一楽徳男・同石田美知雄・同梶本利夫(第一・二・三回)の各証言並びに鑑定人仁田工吉の鑑定の結果および検証の結果をそれぞれ援用し、乙号各証のうち、第一二号証の二の成立は知らない、その余の乙号各証の成立はいずれも認める、と述べ、

被告指定代理人は、証拠として、乙第一号証の一・二、第二号証の一・二、第三号証、第五号証の一・二、第六号証の一ないし三、第七・八号証、第一二号証の一・二、第一三号証の一・二、第一六号証の一ないし四、第一七号証の一・二、第一八号証の一・二、第二〇号証の一・二、第二一ないし二三号証を提出し、証人造田公平・同池田幸夫・同田原広・同樋口久太郎の各証言をそれぞれ援用し、甲号各証のうち、第三号証の一、第四号証の二四・二五・四一、第五号証の一・二、第二二号証の一ないし七の成立はいずれも認めるが、その余の甲号各証の成立はいずれも知らない、と述べた。

理由

原告の請求原因事実のうち、一項の事実はいずれも当事者間に争いない。

原告は本件係争年度における原告の所得金額は請求原因第二項において主張するとおりであるから本件更正決定は違法であると主張するのに対し、被告は、原告の帳簿はその記帳の真実性が乏しく、事業経理の実体を表わしていないから、推計計算によつて原告の所得額を認定したものであり、その所得金額の認定は相当であるから本件更正決定の処分は違法でないと主張するので判断する。

第一原告の帳簿記帳の真実性について、

一  先づ原告方帳簿の記帳状態についてみるに、本件係争年度である昭和二七・二八・二九各年度における原告方の現金勘定の元帳である甲第三号証の一・同第四号証の四一、同じく支払手形勘定の元帳である同第四号証の二四、当座預金勘定の元帳である同第四号証の二五について、その記帳をみてみると、その記帳は同一の筆跡・筆運によつて記帳されているものと思われ、それと記帳に使用されているインクの質およびその濃淡の度合等の記帳状況に鑑みると、これ等の帳簿の記帳は、同一の機会に全体を通して記帳された疑いをいだかせ、日々ないしは短時日づつに区切つてその都度記帳されていたものとは認められないのみならず、その帳簿の中には、記帳されたものをインク消しや横線を引いて消したうえに新たに書き加え、もしくは訂正をし、又は後から挿入したと思われる部分が各所にうかがわれる記帳がなされているのであつて、このような帳簿の記帳状態と前記当事者間に争いない事実の如く、原告の帳簿に基いて算出されたはずである本件係争各年度の所得額についての原告の主張が、確定申告・再調査請求・審査請求の各段階において一定していない事実とを併せ考えると、原告の帳簿が果して事業経理の実体に合致した正確な収支の記帳がなされているかどうかは甚だ疑わしいといわなければならない。

二  次に帳簿の記帳内容についてみるに、

(1)  本件係争年度における原告方の現金勘定が阿波商業銀行古庄支店の普通預金をも含めて記帳されていること、従つて原告の日々の純手持現金在高は現金勘定残高から右預金高を控除した金額であること、原告の帳簿によれば、本件係争年度の期間内において原告の右純手持現金在高が時々マイナスとなり、多いときではその金額が五三万余円になることがあることは、いずれも当事者間に争いない。

思うに現金管理の実体が帳簿上正確に記載されるならば現金勘定の残高ないしは手持の現金がマイナスになるということはありえないことであるから、帳簿上現金勘定の残高ないしは手持現金在高がマイナスになるということは、ひつきよう真実に合致した金銭の収支の記帳がなされていなかつたことを意味するものといわなければならない。

この点について原告は、当時別表六の(一)ないし(三)に記載する如く、相当額の営業外の手持現金を有しており、必要に応じてこれを営業資金に流用していたが、この点については帳簿への記帳を省略していたので右のようなことが生じたのであつて、何等不都合な点はないと主張するけれども、そのように記帳を省略すること自体事業に関する金銭の収支について真実に合致した記帳がなされていないことの証左であるのみならず、右の別表六の(一)ないし(三)によると、右営業外手持現金の入金先は、その殆んどが訴外樋口久太郎、宮下達治、岡内重平、池田幸夫、近藤徳治等からの借入金および池田幸夫に対する貸付金並びに商品売渡代金の回収金であるとされているが、いずれもその成立に争いない乙第一二号証の一、同第二一ないし第二三号証、証人樋口久太郎・同梶本利夫(第一・二回)の各証言によつていずれも真正に成立したものと認める甲第一六号証の一・二、同第一七号証の一・二、同第一八ないし二〇号証、証人田原広・同池田幸夫の各証言によつて真正に成立したと認める乙第一二号証の二を綜合すると、前記の訴外人等のうち、宮下・樋口・岡内・池田からの入金額(即ち、借入金および貸付金並びに商品売渡代金の回収金)のうち、甲第一七号証の二並びに同第一八号証によつて認められる昭和二八年四月一六日付の樋口久太郎からの借入金一〇万円以外の記載部分は、前記各証拠と対比して措信しがたく(この点に関する証人樋口久太郎・同池田幸夫の各供述部分は措信できない。)、右の記載に添う入金があつたと認めることはできない。

又、右以外の者からの入金に関する記載部分のうち、昭和二七年一二月三一日の引出金一九一、〇〇〇円、昭和二八年一二月三一日の引出金二〇万円は、後記(2)の如く営業収益から原告が引出した金額であることは当事者間に争いない(ただし、その引出した日時の点を除く)が、右以外の記載部分が事実に基いたものであることを認めるだけの証拠はないから、原告が別表六の(一)ないし(三)において主張する営業外において有したとする手持現金のうち右三個の入金以外は、その記載の入金先からその記載のような金額の入金があつたものとは認められず、かつ右認定の措信しうる入金額によつてはその記載する出金額を充足できないことは明らかである(昭和二八年一一月三〇日および同年一二月三〇日の営業への貸付金の入金各五〇万円は、昭和二七年一一月二〇日の営業への貸付金一二〇万円の返済分として記載されているものと思われるところ、右の一二〇万円の貸付金が根拠に乏しいものであることは後記(3)において判示するとおりであるから、これを手持現金の入金としてみることはできない。)から、営業外の手持現金を営業資金に流用したとする原告の主張は採用することができない。

(2)  昭和二七年当時、原告が一一人の家族を扶養していたこと、原告の帳簿によれば、昭和二八年一月一日金一九一、〇〇〇円、昭和二九年一月一日金二〇万円の店主引出しの記帳が為されていること、右以外には生活費についての引出し記帳は為されていないこと、当時原告家の一ケ月当りの生活費として金四万円を要したことは、いずれも当事者間に争いない。

右によれば、原告家の一ケ年間の生活費としては少くとも金四八万円を要するものであるが、昭和二七年分については全く事業収益からは支出されていないのみならず、昭和二八・二九年分についても、引出された前記各金額では必要生活費の半分にも満たないものであることは明らかである。

この点について、原告は、生活費は別表六の(一)ないし(三)の如く、営業外の手持現金によつてこれを賄つたと主張するけれども、別表六の(一)ないし(三)については前記(1)において認定したとおりであつて、その主張のような入金先からの営業外手持現金を有していたものと認められないことは前判示のとおりであるから、結局右生活費の不足額は記帳外の原告の営業収益によつて賄われていたものと推認せざるを得ない。

(3)  原告の帳簿によれば、原告が理事長となつていた那賀川共栄木材協同組合からの預り金として、昭和二七年一一月二〇日付金一二〇万円の受入れ記帳が為されていること、原告は右の日に同組合から右金員を借り受けたことがないこと、同組合の帳簿にも右に添う記帳は為されていないことは、いずれも当事者間に争いない。

原告は、この点について、右金員は、原告が樋口久太郎等から借り受けていた金員をさらに池田幸夫に貸し付けていたところ、その後同人から回収した金九〇万円と、原告が営業外において所持していた金三〇万円とを合して、右組合名義を利用して同組合からの預り金として帳簿に記載し、もつてこれを営業用の資金として使用したものであると主張する。

しかし、このこと自体、原告の帳簿が事実に基いて記帳されていないことを意味するのみならず、特に右のように、同組合の名議を利用しなければならない事情があつたとも認められず、又いずれもその成立に争いない乙第一〇号証の一・二、同第一三号証の一・二並びに前記乙第一二号証の二、証人造田公平・同田原広の各証言を綜合すると、高松国税局協議官である造田公平から右の点について度々追求されていた原告の回答が一貫していなかつたこと、池田幸夫は原告から金員を借りたことはなく、ただ買受けた商品の代金債務を負担していたが、原告が主張する日時頃にはその金員を支払つていない(乙第一二号証の二によると、池田幸夫が本件係争年度期間内において原告に金員を返済したのは、昭和二九年二月八日の金七〇万円のみである。)ことが認められ(右認定に反する証人池田幸夫の供述部分は措信できない。)、以上の事実と前記判示の如く、原告の営業外手持現金に関する主張が措信できないことに鑑みれば、原告の右主張もこれを認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はないから、原告の帳簿は、右の点についても事実に基いた記帳が為されていないものといわねばならない。

(4)  被告主張の第一の四項(二)の事実については当事者間に争いない(ただし売上げを隠ぺいしたとの点を除く)から、この点においても原告の帳簿が事実に基いた記帳が為されていないことが認められる。

(5)  原告が、昭和二七年一一月二八日、当座預金から金一〇〇万円を引出し、原告方帳簿の同日付の現金勘定に同金額の受入れ記帳が為されていることは、当事者間に争いないところ、いずれもその成立に争いない乙第二号証の一・二によると、昭和二七年一一月二八日、原告は四国銀行富岡支店の原告名義の当座預金から金一〇〇万円を引出し、これを同銀行富岡支店長名義の当座預金に振替えるとともに、同日、同支店長名義の額面金一〇〇万円の小切手を受けとり、これを三和銀行富岡支店の那賀川共栄木材協同組合理事長梶本喜八名義の普通預金に入金したことが認められ、又甲第三号証の一の昭和二七年度の原告の現金勘定の一一月二七日付貸方欄には、金一〇〇万円の当座預金への出金の記帳が為されているところから、原告が昭和二七年一一月二七日に当座預金に預け入れた金一〇〇万円の金員は翌一一月二八日、原告によつて四国銀行富岡支店の原告名義の当座預金から引出されたものと思われるが、しかしながら原告が引出した右金一〇〇万円は、実際には前記認定の如き経路をへて三和銀行富岡支店における那賀川共栄木材協同組合理事長梶本喜八名義の普通預金口座に預け替えられたことになり、従つて、原告の現金勘定に受け入れ記帳されている前記金一〇〇万円の金員は、結局は原告の手許には入金していないことになるが、何故に原告の手許に入金されるべき右金員が右組合理事長の預金口座に預け入れられねばならないのか、又どうして右の如き帳簿操作がとられなければならないのかという点が明らかでなく、結局これ等のことは、原告の帳簿がその経理の実体を正確に記帳していないことを推認させるものといわねばならない。

(6)  原告が、昭和二九年四月一五日現在の期末製品棚卸において、製品石数を一四五石として計算していることは当事者間に争いないところ、成立に争いない乙第三号証によれば、原告は昭和二九年四月一五日、挽材二八一石六三を神戸の山和商店宛に船積していることが認められ、右によれば、昭和二九年四月一五日現在における原告方の在庫製品の総数は、少くとも二八一石六三はあつたことが認められるし、原告の主張によると同日現在における棚卸製品石数が一四五石と異るものであることは明らかであるから、このことからも原告方帳簿の記帳の真実性は疑わしいといわねばならない。

三  以上認定した事実を綜合して考察すると、原告方の帳簿は、全体として原告の本件係争年度における経理の実体を正確に表わしているものとは認められず、これをもつて、そのまま収支計算の証拠とすることはできないといわざるを得ないから、被告がその調査により当該事業年度における原告の所得金額を推計計算の方法により算定したことは相当であるといわなければならない。

第二推計計算について

そこで、被告が採用した推計計算の方法が合理的なものであるか否かの点について判断するに、一般に電力を使用動力源とする製材工場においては、電力の消費量が製材高を表わすバロメーターであると考えられるから、他に拠るべき資料がない以上、その電力消費量から製材石数を算出し、その製材石数の量から所得金額を推計する方法は合理的なものと認めてよいであろう。

よつて、本件において被告が推計計算によつて認定した所得金額が妥当か否かについて検討すると、被告は原告の本件係争年度における所得額を、別表一ないし三の被告主張額欄記載のとおり認定したと主張するところ、この内、別表一の(1)(3)(5)(7)(8)(24)・別表二の(1)(3)(5)(7)(8)(24)(26)・別表三の(1)(3)(5)(8)(9)(24)(27)の各金額について争いがある外は、いずれも当事者間に争いない。

そこで、被告が推計計算をするについて採用した認定根基のうち、右争いがある部分について判断することにする。

一  被告主張の収入金額(別表一ないし三の各(1)(3)の被告主張額欄記載の金額)について、

(一)  被告は、本件係争年度における原告の売上金額(別表一ないし三の各(1)の金額)は、原告方の消費電力一KW当りの製材石数を〇・二石と認定したうえ、別表四の如く算定したものであると主張し、右の如く、原告につき消費電力一KW当りの製材石数を〇・二石と認定したのは、訴外一楽製材有限会社・西浦製材有限会社および有限会社梶本喜八商店の実績に照し、妥当なものであると主張するところ、

(1) 一楽製材の昭和三一年九月一日から昭和三二年八月三一日までの事業年度における消費電力量が二四、七九八KW・製材石数が五、九〇五石であるから、同会社の消費電力一KW当りの製材石数は〇・二三八石であること、

(2) 西浦製材の昭和三二年四月一日から昭和三三年三月三一日までの事業年度における消費電力量が九、五六一KW・製材石数が二、七九三石であるから、同会社の消費電力一KW当りの製材石数が〇・二九二石であること、

(3) 梶本喜八商店の昭和三一年四月一日から昭和三二年三月三一日までの事業年度における消費電力が四三、一一五KW・製材石数が九、七八二石九三であるから、同会社の消費電力一KW当りの製材石数は〇・二二石であること、

は、いずれも当事者間に争いない。

(二)  ところで、電力を使用動力源とする製材工場においては、特別の事情が認められないかぎり、電力を使用動力源とする製材工場間における消費電力量と製材高との比率はほぼ同程度のものであつて、その間に大きな差異が生じないのが通常であるというべきである。

そこで、本件の場合についてこの点をみると、前記の如く、消費電力一KW当りの製材石数は、一楽製材が〇・二三八石、西浦製材が〇・二九三石、梶本商店が〇・二二石であるから、原告が本件係争年度において一KW当りの電力を消費して〇・二石程度の製材をしていたであろうことを推認するのは難くないから、原告についてこれを〇・二石と認定するのが相当でない特別の事情が認められないかぎり、被告が原告につきこれを〇・二石とした右認定は一応妥当なものであるということができる。

(三)  そこで、原告方には、右の各訴外会社と対比するのが相当でないと認められる特別の事情があつたかどうかについて判断を加えることにする。

この点について、原告は、(1)原告方の製材機械設備は老朽化している上に、大伝導装置によつてこれを運転しているために、電力消費量のロスが多いこと、(2)原告方は原木の購入が十分できなかつたので、実際の生産活動においても原告方の機械設備のうち、一号テーブルは本件係争年度中は殆んど空転状態にあつたが、梶本商店になつてからはこれが稼動を始める等、その経営状況が大きく変化したこと、(3)原告は、本件係争年度中は板類(主として薄板)を中心とする製材をしていたが、昭和三一年八月から梶本商店は歩留りのよい割類を中心とする製材に移行したこと、(4)本件係争年度における原告の売上記帳は実際の石数によつて為されていたのに対して、訴外会社等のそれは実際の六四パーセントしかない名目石数(表示石数)によつて行われていたこと、等を理由として、原告を訴外会社等と比較するのは相当でない旨主張する。よつて、これ等の点について判断すると、

(1) (イ) 証人梶本利夫(第一・三回)の供述によつて当時の原告方の機械設備の配置関係を記載したものと認める甲第一一号証・同第二二号証、証人庄野茂・同三好政八・同石田美知雄・同梶本利夫(第一・二・三回)の各証言、鑑定人仁田工吉の鑑定の結果および検証の結果を綜合すると、本件係争年度における原告方の製材機械設備は、蒸気エンジンを電動機に切り替えてこれを動力源として使用していたものであるがそのうち三〇馬力モートルによつて四四吋自動帯鋸機(自動台車)・四二吋帯鋸機(一号テーブル)・四二吋丸鋸機を動かし、これとは別に二〇馬力モートルによつて四二吋帯鋸機(三号テーブル)二〇吋丸鋸機その他丸鋸機・目立機の附属機械を動かすという構造を有しており、これらはいずれもモートルからベルトを用いてメインシヤフト(主動力軸)を廻転させ、そのメインシヤフト(主動力軸)からさらにベルトを用いて各種の機械を運転するという方式のいわゆるベルトによる伝導装置をとつており、従つて、この方式によると、各機械をモートルと直結して運転する方式のいわゆる直結式による伝導装置の場合と異り、<1>各ベルトの伝導効率が悪いこと、<2>電動機にかかる負荷が軽負荷の状況が多くなりがちと思われ、従つて電動機も低い効率の範囲で使用する時間が多くなること、<3>一部の機械を運転して他の機械を停止させ、製材として使用しない場合でも、その系統に属する機械全体を運転状態に放置する必要があること、当時原告方の工場においては、製材用原木の入手が或る程度不足がちであつたために、終日稼動することができない日があつたことが認められること、

(ロ) 証人西浦義夫の証言によると、西浦製材の機械設備は、四二吋および三八吋の帯鋸機二台と二〇馬力のモートルを有するが、これ等はモートルからベルトを利用してメインシヤフトを廻転させ、さらにメインシヤフトからベルトを利用して各種の機械を運転するいわゆるベルトによる伝導装置であることが認められること、

(ハ) 成立に争いない乙第七号証および証人一楽徳男の証言によると、昭和三一・二年当時の一楽製材の機械設備は、四二吋の帯鋸機二台とこれ等の附属機械である丸鋸機数台を有していたが、これらの帯鋸機はそれぞれ一五ないし二〇馬力のモートルと直結して運転されるいわゆる直結式の伝導装置であることが認められること、

(ニ) 梶本商店は、昭和二九年四月一六日に、原告がそれまで個人で経営していた製材業の機械設備および従業員等をそのまま引継いで設立されたものであり、昭和三一年三月末までは、その機械設備および経営状況が殆んど変化していないことは、当事者間に争いないところ、いずれも成立に争いない乙第一六号証の二、同第一七号証の二によると、同商店の昭和三〇年度の事業年度(昭和三〇年四月一日から昭和三一年三月三一日まで)の期首における機械の残存価格が九九、四三九円であり、これを一割九厘の償却率によつて一〇、八三九円を償却した結果、同期末における機械の残存帳簿価格が八八、六〇〇円とされているのに対して、翌昭和三一年度の事業年度(昭和三一年四月一日から昭和三二年三月三一日まで)の期首における機械の残存価額が八八、六〇〇円であり、これを同じく一割九厘の償却率によつて九、六五七円を償却した結果、同期末における機械の残存帳簿価格が七八、九四三円とされていることが認められ、これ等の事実によると、昭和三一年度の期首においては、従来の機械設備がそのまま承継されていること、機械の残存価格が定率による償却額以外に増減していないことに鑑みれば、同年度期末においても従前の機械設備がそのまま承継されており、右事業年度中においては機械の増設等もなかつたと認めるのが相当であること(この点に関する証人梶本利夫(第一・二・三回)の供述部分は措信できない。)

以上の各認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実によると、原告方の機械設備と西浦製材および一楽製材の機械設備とは必ずしも同一のものではなく、特に原告方のそれはある程度老朽化しており、かつ一楽製材のそれが直結式による伝導装置であるのに対して、原告方のそれがベルトによる伝導装置である点において差異があるけれども、他方、西浦製材の機械設備は原告方のそれと同様にベルトによる伝導装置である点で差異がないのみならず、梶本商店の昭和三一年度における機械設備は、本件係争年度における原告方の機械設備とほぼ同一の状態で引継いだものであつて、その間には殆んど変化が認められないから、原告主張の如く、原告方と西浦製材ないしは梶本商店との間には、機械設備の点において著しい相違があると認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

(2) つぎに原告は、素材が十分に購入できなかつたため原告方の機械設備のうち、一号テーブルは本件係争年度中は殆んど空転状態にあつたと主張するところ、原告方の機械設備装置によれば、一部の機械のみを使用して製材する場合においても、同一のモートルの系統に属する機械は運転状態にする必要があることは前判示のとおりであるが、いかに原木の購入が十分でなかつたからといつて、営利を目的とする原告が、本件係争年度中の長期間に亘つて一号テーブルを空転状態にしたままこれを使用しなかつたというような生産活動をして無駄を生ぜしめていたということは考えられないことであつて、この点に関する証人梶本利夫(第一・二・三回)の供述部分は措信できず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

(3) さらに原告は、本件係争年度中においては、板類(主として薄板)を中心とする製材をしていたが、昭和三一年八月から梶本商店は割類を中心とする製材に移行したと主張するけれども、仮りに板類の生産をするかあるいは割類の生産をするかによつて電力消費量と製材高との割合に差異があるとしても、その間に著しい差異があるとは考えられないのみならず、成立に争いない乙第五号証の二によると、昭和二九年四月一五日現在の原告方の在庫の中には、相当量の角類や割類の製品が含まれているのみならず、板類の中にも四分以上の厚さを有するものがかなり含まれている(即ち、在庫品の合計そうして記載されている二八一石六七のうち、厚さ三分以下の板類は一〇一石二二〇であつて、それ以外は厚さ四分以上の板類(小巾板を含む)および角類並びに割類である。)ことが認められるから、本件係争年度においては、板類に最も比重を置いていたとしても、原告が主張する如く、主として薄板のみを製材していたとは認められず(この点に関する証人石田美知雄・同梶本利夫(第三回)の各供述部分は措信できない。)、他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。

(4) つぎに原告は、本件係争年度における原告の売上記帳は実績の石数(実質石数)によつて為されていたのに対して、訴外会社等のそれは実質の六四%しかない名目石数(表示石数)によつていたから、両者を比較することはできないと主張するが、証人西浦義夫・同一楽徳男・同庄野茂・同三好政八の各証言によると、生産された製品には、実際の石数は表示されず、実際よりも幾分少なめな石数を表示するという慣行が製材業者一般の間で広く行われていることが認められるところ、このような慣行が特に昭和三一年八月頃から行われるようになつたとは認め難いから、それ以前においても広くこのようなことが行われていたものと思われ、従つて、訴外会社等はもとより、原告もこれによつていたと考えるのが相当であり(この点に関する証人梶本利夫(第三回)の供述部分は措信できない。)、他には原告の右主張を認めるに足る証拠はない。

(四)  又原告は、被告主張の如く、原告方の消費電力一KW当りの製材石数を〇・二石とすると、これによつて算出された製材石数(別表四の(3))は、従業員一人当りの作業能力の限界を超えることになるから、右の認定は実際と異るものであると主張するが、原告が主張する如き従業員一人当りの作業能力の限界がいかなる点に求められるかが明らかでない(この点に関する証人石田美知雄・同梶本利夫(第三回)の各供述部分はその根拠が明らかでないから採用できない。)から、右の主張も理由がないというべきである。

(五)  以上検討したところを綜合すると訴外会社等の実績に照し原告の消費電力量一KW当りの製材石数を〇・二石とした被告の認定は、必ずしも不相当であるということはできない。

(六)  然らば、別表四のうち、(2)(4)(5)(7)(9)(10)(11)についてはいずれも当事者間に争いないから、原告方の消費電力一KW当りの製材石数(別表四の(1))を〇・二石として本件係争年度における原告方の売上金額(収入金額)を算定すれば、別表四の(12)の如くなることは計算上明らかである(右の計算方法は同表の摘要欄に示すとおりである。)。

二  被告主張の製造原価(別表一ないし三の各(5)の被告主張額欄記載の金額)および販売原価(別表一・二の各(7)・別表三の(8)の各被告主張額欄記載の金額)について、

被告は、本件係争年度における原告方の製造原価は、別表五のとおり算定したものであると主張するところ、別表五のうち、(2)(4)(5)(7)(8)についてはいずれも当事者間に争いなく、かつ同表の(1)の本件係争年度における原告方の自家製品売上金額は、前項において判示した如く、別表四の(8)のとおりであるから、これによつて原告方の本件係争年度における製造原価を算定すれば、別表五の(9)の如くになることも計算上明らかである(右の計算方法は、同表の摘要欄に示すとおりである。)。

従つて、右の製造原価に従つて本件係争年度における原告方の販売原価を算定すれば、別表一・二の各(7)・別表三の(8)の各被告主張額欄記載の金額となる(右の計算方法は、別表一ないし三の摘要欄に示すとおりである。)。

三  以上認定した各事実並びに前記当事者間に争いない事実によつて計算すると、原告の昭和二七年度における総所得金額は別表一の(24)の被告主張額欄記載のとおり金一、〇六四、七〇一円(右は全額事業所得額である。)に、同二八年度の分は別表二の(26)の被告主張額欄記載のとおり金一、五五二、五三六円(この内、事業所得額は金一、五〇八、六六一円、不動産所得額が金四三、八七五円である。)に、同二九年度の分は別表三の(27)の被告主張額欄記載のとおり金七一二、九八九円(この内、事業所得額は金五〇二、八五二円、不動産所得額が金三一、五三七円、給与所得額が金一七八、六〇〇円である。)となるものである(その計算方法は、同表の摘要欄に示すとおりである。)。

そうすると、本件係争年度における原告の総所得金額について、昭和二七年度分を金八四四、一〇〇円と、昭和二八年度分を金一、四七九、六〇〇円と、昭和二九年度分を金六二二、四〇〇円とそれぞれ更正した本件更正決定の所得金額は、いずれも前記認定の所得金額の範囲内に属するから、被告が為した本件更正決定の処分はいずれも正当であるというべきである。

第三  よつて、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 原田三郎 裁判官武内大佳は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 伊藤和男)

別表 一

収支計算表(昭和二七年分)

<省略>

(註) 右表の原告主張額は審査請求に際して原告が主張した数額である。

別表 二

収支計算表(昭和二八年分)

<省略>

(註) 右表の原告主張額は審査請求に際して原告が主張した数額である。

別表 三

収支計算表(昭和二九年分)

<省略>

(註) 右表の原告主張額は審査請求に際して原告が主張した数額である。

別表 四

製材石数及び売上金の算定表

<省略>

別表 五

製造原価及び販売原価の算定表

<省略>

別表六の(一)

昭和27年に於ける営業外手持現金収支明細書

<省略>

別表六の(二)

昭和28年に於ける営業外手持現金収支明細表

<省略>

別表六の(三)

昭和29年に於ける営業外手持現金収支明細表

<省略>

別表 七

有限会社梶本喜八商店製材歩留り表

<省略>

別表 八

製材歩留りの比較表

<省略>

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